第9章 忌まわしき日々
『行きましょう、大佐』
肩を抱かれた私はそのままスザクについていくことになった。
行き着いた場所はスザクの自室だった。
私を座るように促して、自分はどこかへ行ってしまった。
すると、ふわっと甘い香りが部屋の中を満たす。
『遅くなってすみません』
スザクはおぼんにポットとカップを置いて持ってきた。
カチャッとガラスがぶつかる音を立てながらトプトプとカップに注がれていく液体。
『すみません、今はこれしかなくて…。お口に合うかはわかりませんがピーチティーを淹れました。お好きな分だけ砂糖を入れてください』
大量に砂糖が入ったものを渡される
私は無言でその砂糖を軽く3杯ぐらい入れた。
『…本当に甘いのがお好きなんですね』
『別に、ただ甘かったら気分が落ち着くだけ』
そこから互いに無言が続いた。
『…どうして、あんなことを言ったの?』
沈黙を貫いたのはスカーレットの方だった。
『あんなこと、というのは?』
『…私が…人間らしいって…』
私自身どう考えても自分が人間らしいとは思っていなかった。
過去に実験をされ、挙げ句の果てに施設で大切な人までも亡き者としてしまった。
自分が生きるためとはいえやはり罪の意識はなかなか消えない。ううん、消したらダメ。
過去のことを知らないこいつはいくらでも言える。
私の過去を知ればこいつだって人間らしいとは言わなかっただろう。
けど、何も知らないこの目の前の男は人間らしいと言った。
確かにこの耳で聞いた。
『さっき、海兵達に向かっていったのは本音ですよ。自分の思うままに生きるあなたは人間です。
化け物はあの海兵達ですよ』
ニコニコと笑いながら実は言っていることは結構えげつない。
今日で分かったことはスザクは1度キレるとしばらく腹黒い。
『あんただって私の過去を知ればそんなこと言えなくなるよ』
『…失礼かと思いましたが、センゴク元帥から大佐の過去を全て聞きました』
『えっ…?』
聞いたの?あの過去を??
それを聞いた上でこの男は私を人間らしいと言うの?
『正直、驚きしかありませんでした』
世界政府の命令によって作られたメモメモの実。
そして、唯一の実験者もとい被害者。
真実を聞かされてもやっぱり“化け物”だとは思えなかった。