第9章 忌まわしき日々
その時、ふと私は自身の能力の存在を思い出した。
…そうだ、私にも悪魔の実の能力があるんだ。
まだ1度も使った事のない能力に意識を傾けてみる。
すると体はまるで最初から分かっていたかのように自然と動いた。
『“メモリー”』
両手を前に差し出して私は一瞬でその能力を記憶した。
体の中にフィットした感覚に少し違和感を覚えたが直ぐに忘れてしまった。
私は右手を横にスライドさせた。
『風穴』
風が他の人たちの体を貫いた。
バタバタと全員が倒れて行った。
ただ1人、私だけを残して。
『くっ…ぎゃはははっ!おもしれぇ、ちゃんと噂通りの能力じゃねぇか!俺のカゼカゼの能力を記憶したのか。おい、今日はもう終わりだ。とっとと部屋へ戻りな』
私は倒れて動かなくなった子達の上を無言で歩いて帰った。
なんども頭の中でリフレインされる風が他の人たちの体を貫いた瞬間。
あの子達は声を上げる事もなく一瞬で息絶えた。
なんとか部屋に戻ってもか震えが止まらなかった。
『大丈夫?』
ふと、聞こえてきた声に反応すると1人の女の子が部屋の中にいた。
『大丈夫?怪我してる、痛くない?』
見た所年上で少なくとも10歳ぐらいだろう。
『私はアルト。ここの施設では1番の古株なんだ!』
よろしくねシロちゃんと言った。
『…シロちゃん?』
『ああ、私は人に名前を聞かないんだ。だってこの施設にいたらいついなくなるか分からないからね。名前は聞かず自分が呼びやすいあだ名で呼ぶんだ』
だから、君は綺麗なか銀髪をしているからシロちゃんね!と言ってくれた。
例え、仮の名前でも私にとってこんなに嬉しいことはなかった。
それから半年私はアルトとよく一緒にいるようになった。
時には喧嘩をした日もあったし私が怪我をした日はアルトが手当てをしてくれた。
ここまで人を身近に感じられたのは初めてで、私は経験したことのない喜びがあった。
しかし、別れは突然やってくるのだった。
私はいつものように小太りの男に呼ばれて突き当たり右の部屋に行く。
するとそこにはアルトしかいなかった。
『え…?シロちゃん??』
『アルト…どうしてここに?』
私たちはお互い困惑した。
今まで1度もこの部屋で会ったことがなかったからだ。