第3章 めざめ
霞んでいく視界の中で目を凝らして見てみれば驚いたように自分を見つめる女性と、彼女の腕が見える。強ばっていた自分の顔が、助かったという安心感で緩んでいくのを感じる。
「ごめんねいきなり!!お願い、助け」
どん、と胸元の辺りに感じる確かな感触。足下から踏み面(ふみづら)が消え、体が宙に浮く。ひゅう、と耳元で風が通り抜けた気がした。
「……え?」
間抜けな声が口から漏れ、勢いよく自分の体が落ちていくいくのを感じた。
(待って、どうして!こわいっ!)
手を上へ上へと伸ばしたまま、背中から落下していく。階段の最上階にいるはずの女性の姿がどんどん遠くなり、霞んでいく。
(あなたの言葉、ちゃんと聞けて、ない)
落ちていくことへの恐怖とぐにゃりと歪んでいく景色に対する目眩のような気持ち悪さに私はぎゅっと目を閉じた。
サスペンスドラマみたいだなぁ、と下らないことが何故か頭の片隅によぎった。こんな高さから落ちたら絶対、痛いよね。
死にたく、ないなぁ。
そんなことを考えながら私はゆっくりと意識を手放していった。