第20章 6人旅(旅行編)
カラ松が地面に叩きつけられる音の代わりにバサッと空を切る音がして、目を開けると目の前には漆黒の羽をはやしたカラ松そっくりの人がいた。
「カラ・・・松、さん?」
「ああ、一松・・・久しぶりだな?」
そう言って僕の頬を撫でるカラ松さんの目には涙が溜まっていた。
「ごめっふうっん!?」
謝ろうとした僕の口はカラ松さんの手で塞がれてしまう。
「俺が聞きたいのはそんな言葉じゃないぞ、一松?」
「へ?」
カラ松さんは片膝を突くと、いつの間にか妖怪の姿になっていた僕と目線を合わせて言った。
「男同士で違う種族同士だ、一時の迷いかもしれないとも思ったが、俺の気持ちは何百年経ってもこの通り変わらない。それどころか増すばかりだ。一松、俺はお前を愛しているんだ…俺の嫁にならないか?」
差し出された手を見つめる。
その手の温もり、優しさ、強さ…
それが何百年経っても、生まれ変わっても変わらないことを僕は知っている。
そして、それなしでは生きていけないことも
分かってる。
僕はその手を取った。
するとパッーと辺り一面光に包まれて、光が消えると明るさに慣れてしまった俺たちの目には何も見えない。
しばらくじっとしているとやっと目が慣れて来た。
目の前には一番馴染みのあるカラ松がまだ膝をついて俺の手を握っていた。
「カラ松?」
ハッとしたカラ松は握った手はそのままに立ち上がる。
「一松…おおお、いちまぁーーーっつ!」
グッと手を引かれ胸の中にすっぽり収められて抱きしめられる。
「俺は感動した!俺と一松は前世もこうして愛し合っていたんだな!いちまーつ!」
「耳元でワーワー騒がないでよ、近所迷惑だし」
完全に興奮しきっているカラ松を引きはがそうと悪戦苦闘していると、遠くから悲鳴が聞こえてそちらに目を向ける。
すると真っ青な顔をしたチョロ松兄さんとトド松がこちらに向かって走って来ている。
そのチョロ松兄さんの背中に青白い、生気の全く感じられない女の姿が見えたことは黙っておくことにした。