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ブラック・リード (鉄血のオルフェンズ)

第2章 ゼロ・ニ


「野菜でっかいね」
「クーデリアが切ったんだよ!」
クッキーが答えた。
「お嬢さんが…?」
「うん。食ってる感じがして、旨いよ。バレットも食べる…?」
「食べる」
そう言って、三日月が差し出したスプーンにかぶり付いた。トマトスープだ。けれど具が大きい分、しっかり噛まないとなかなか飲み込めない。噛むことは身体にいいんだっけ。そんなことを想いながらモグモグとやり、飲み込んだ。その様子を、クーデリアが食い入るように見つめていた。
「ど、どうでしょうか…?」
わたしは彼女を一瞥し、
「俺も旨いと思う。たまにはこういうのも悪くないね」
「そそ、そうですか…」
照れるクーデリアの表情を、空しく見ていたが、我に返って三日月の方を向いた。
「ごちそうさま。さて、仕事に戻ろうか」
「うん、そうだね」
三日月が頷くと、わたしは踵を返した。上着のポケットに手を突っ込み、オフィスの方へと戻っていく。建物は、小さな豆電球がぽつぽつとあるだけで薄暗い。三日月はわたしのすぐ横を歩いていた。
「緊張してる?」
「まさか」
わたしは三日月を見ずに答えた。
「バレットが甘えてくる時はだいたい何かあるんだけど」
「大丈夫だって、いつもと変わらん」
「……ほんとうに?」
三日月が足を止めて聞いた。大きくて丸い瞳がこちらを見つめている。まるで二つのブラックホールだ。わたしがいくら壁を作ろうとも、三日月はそれをぶち壊して乗り込んでくる。最初に男装を見破ったのも、彼だった。
「…嘘。部品が壊れかけてる」
「あぁ。だから心臓の音、前より小さかったんだ。」
「はは、お見通しだったってわけ」
三日月が胸に頭を預けてきたのを思い出した。防弾ベストも着ていたのに、よく心音なんて聞けたものだ。
「ミカ」
わたしは、三日月の手に小さな端末を握らせた。
「助けて」
「いいよ」
ミカは端末を握りしめ、
「何人殺してたって、バレットは絶対に死なせない。バレットが止まったら、きっと駄目になる。俺も、オルガも」
狂気となんとかは紙一重、という言葉があるけれど、三日月のそれは間違いなく前者に近いと思う。なんだか永遠に肝臓を啄まれている感じ。でも、わたしはそれが嫌いではなかった。むしろ心地よささえ感じていた。
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