第3章 ゼロ・サン
面倒なことを考えてばかりのわたしだが、普通に整備士をしている日もある。特に、年下組と一緒の時は。
「バレットさーん。コックピット周りの装甲ってどうします?」
ヤマギが、バルバトスの胸部からひょこっと頭を覗かせる。
だだっ広い演習場。追い出した大人たちの私物を整理して、すっきりさせたスペース。そこにバルバトスと鹵獲したグレイズが並べてある。
わたしはその足元で、端末と睨みあっていた。
「あー、やべ。計算すんの忘れてた」
画面から顔を上げ、上着のポケットに手を突っ込む。適当な紙とペンを取り出して、そこにリアクターの見取り図や、その他物理法則を書いていった。
紙は、今こそデッドメディアになりつつあるが、データよりずっと安全に情報を保存出来る。
「紙なんて珍しいですね。どこで手に入れたんです?」
振り返ると、ヤマギがリフトから降りてきた。
「廃棄される包装紙だよ。アトラにいつも頼んでるんだ」
「お菓子とかのですか?」
「あぁ。まぁ、中身の方は何年も食ってねぇけど」
「ぷっ」
「え、今笑うとこか?」
「いや…バレットさんも菓子とか食べるんだな…って思って。想像したら、つい。すみません」
「なんだよー、甘党で悪かったかよぉー」
不満たらたらに頬を膨らませると、ヤマギは喉を鳴らして笑う。
「悪くないと思います。いいギャップですよ」
「別にそういうの目指してねぇし」
「あー!全然帰って来ないと思ったら!!」
リフトから飛び降りてくるライドの姿が見えた。片手に整備用の工具を抱えている。どうしたと聞くとライドは、ヤマギの様子を見にきたと答えた。悪いな、わたしはそう言って彼に指示書を渡した。
「紙?」
「そのことについてバレットさんと話してたんだ」
「え、何の話?俺も聞きたい!」
わたしは思わずヤマギの方を見た。青い目を細めて楽しそうに笑っていた。先輩の弱点をからかっているのだ。生意気な後輩だ。ちくしょう、後で絶対に仕返してやる。
「……俺が、菓子好きな甘党だって話」
「なにそれかわいい」
「ぶっとばすぞ?」
「わー!すみません!怒らないでください!バレットさん、怒ると三日月さん並みに怖いから…。それにしても、菓子食ったことあるんですね。俺はないなぁ」
「俺もあんまり」