With Live Planet _この星で生きる_
第5章 最怖の相手
彼女がそこまで言った時、彼女の何かが無くなった気が一瞬だけした。
「私には大事なものが欠けています。
戦争のせいで捨ててしまったんです。
でもそのおかげで生きてこれました。」
最後は眩しいほどの笑顔をこちらに向けてきた事に心が痛んだ。
捨ててしまって忘れてしまったから分からないという彼女の何か。
きっと感情の何かだろう。
喜怒哀楽の何を忘れているのだろう。
それともそれ以外の何かなのか。
「僕たちと暮らしていたら分かるんじゃない?」
「かもですね…」と返事したアテラスに
気になってたことを質問してみる。
「ラーファから聞いたんだけどさ、子供の時代そんなよくなかったの?」
「あぁ、まぁ…はい」
そこから話を聞いていくと、お酒の力を借りたのか彼女はポツポツと話し始めた。
まぁ、聞いた結果だけど少しだけ後悔している。
僕と生い立ちがひどく酷似していた。
僕も家族に嫌われ、とある人にもらわれたのだ。
でも拾ってくれた人はとてもいい人らしく、少しでもハッピーエンドで終わることを願っていた。
でもいきなりアテラスは言葉が詰まり、
意識が朦朧としている時のような表情を見せた。
「辛いこと話させてごめん。
もうその先は話さなくていいから」
なんだか彼女がひどく小さく見えた。
今にも消えてしまいそうで、僕が守らなきゃ壊れてしまいそうで。
咄嗟に彼女を抱き寄せていた。
彼女の体温と震えが痛いほど伝わる。
アテラスは最後の人類。
という事は拾ってくれた人は死んでいる。
殺されたか、自殺したか、それとも…
ーアテラスが殺したか。
強い彼女がここまで弱っているという事は何らかの事があったのだろう。
僕の背中に細い腕を回してきて、力一杯抱きついてきた。
ふいに香った彼女の匂いがなんだか懐かしく感じて、僕自身も落ち着いた。
少ししたら震えも止まり、抱きついていた力も弱まったから僕も彼女の背中にある腕を離そうとした。
「まだ…離さないで」
しかし不意に聞こえたか細い声が僕を止まらせた。
そのままにしているとすぐに規則性のある寝息が聞こえた。
「…僕が君を守ってあげるからね」
もう一度抱きつき直し、呟くと僕も目を閉じた。