第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
No.56はクレイオの隣に立つと、同じように夜空を見上げた。
「No.217はお空が好きなのね。いつも見てる」
「好き・・・かどうかはわからないけど、きれいだとは思う」
「きれい・・・きれいって良いことなのかな・・・」
綺麗、美しい、その言葉は少女達にとって“脅迫”のようなもの。
綺麗でなければ、美しくなければ、ここではゴミと同じ扱いをされるのだから。
「下界に落ちたら、お腹が痛くなることも、おまたが痛くなることもないのかな・・・」
「・・・・・・・・・」
「だったら、あの星のようにきれいじゃなくてもいい」
望まなくとも、持って生まれた容姿はどうしようもない。
少女達には容姿の優劣など分からないが、天竜人や従者達は太っていたり、鼻が曲がっていたり、吹き出物だらけの顔をしている者もいる。
彼らもここで生きているのに、どうして奴隷は“美しさ”を強要されるのだろうか。
だが、そんなことは彼女達にとって分かりようのないことだった。
「No.217・・・ココアを飲んで」
小さな手にカップを渡す、小さな手。
「No.217が元気になってくれないと・・・いなくなっちゃうかもしれないから・・・」
二人の後ろに並んでいるベッドは、そのほとんどが空だ。
血の繋がりは無くても、生まれてからずっと一緒にいる姉妹達。
疑問に思う前に天竜人の性奴隷となるため教育を受けさせられ、美しく育たなかった者が地に落とされる様を見続けてきた。
かといって、ここに残っている彼女達が幸せというわけでもない。
そもそも“幸せ”というものが何かを知らなかった。
「できるだけ・・・No.217やみんなと一緒にいたい・・・」
ただ、もし幸せが人を笑顔にするものならば・・・
「・・・ココア・・・甘い・・・」
同じ境遇を分かち合う姉妹と一緒に飲むココアが、それなのかもしれない。
上唇にチョコレートミルクのひげを作りながら、クレイオは姉に寄り添い微笑んでいた。