第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
「クレイオ!! てめェ、そこで何してる!!」
振り返ると、そこにはグラディウスが今にも血管がはちきれんばかりにしていた。
クレイオは口の端を上げると、怒り心頭の男に冷ややかな瞳を向ける。
「グラディウス・・・何か用?」
「若がプールにいるというのに、なぜお伴をしない?!」
「別に私がいなくたって、ドフラミンゴの周りには若い女の子がたくさんいるじゃない」
いまだ独身の国王の気を引こうと、国中の若い美女達が彼に色目を使っている。
自分がいなくなって十分、“お楽しみ”はあるだろう。
「お前が必要かそうでないかは、若が決めることだ!」
「ええ、そうね。この国の“国王様”だものね」
ドレスローザでは、ドフラミンゴが絶対的な存在。
800年以上この国を守ってきた偉大なリク一族の肖像画を穢すことが許されるほどの地位にいる。
「水浴びにお伴しなかったのは謝るわ。でも、私は人前で肌を見せたくないの」
「何だと?」
「彼もそれを許してくれるはずよ。だって、私の肌は“ドフィ”だけのものだから」
クレイオがドフラミンゴをそう呼ぶと、グラディウスの額にさらに大きな血管が浮き上がった。
“怒髪冠を衝く”がごとく髪が逆立ち、あと少し刺激を与えてやれば爆発しそうだ。
「ふふふ、そう怒らないで。私は貴方の笑った顔が見てみたいのに」
「おれには下品な女の色仕掛けは通用しねェ」
「あら、残念」
生真面目な性格なのか、それともドフラミンゴへの忠誠心からか。
捲し上げたドレスから伸びるクレイオの生足から目を逸らし、プールがある中庭の方を指さす。
「服は着たままでいいからさっさとプールへ行け。若が待っている」
「もう彼の興味はとっくに他へ移っているでしょ。今さら行っても無駄」
そう言いながら、プールとは反対の方へスタスタと歩いていってしまうクレイオに、グラディウスは盛大に舌打ちをした。
───若が甘やかすからツケ上がるんだ。
行き場のない怒りをぶつけたかったのか、すぐそばで震えていたブリキ人形をチラリと見ると、バケツを蹴っ飛ばし、磨いたばかりの床に水をぶちまけた。