第6章 真珠を量る女(ロー)
それは11年前。
大嵐の海を、屋根すらない救命ボートで渡っているときのことだった。
珀鉛病の末期症状である高熱に浮かされていたローは、強い雨風と波しぶきでずぶ濡れになりながら、死を感じていた。
病で死ぬのが先か、
それとも溺れ死ぬのが先か。
そんな彼を懐に入れ、必死に抱きしめてくれていた人が言った。
“大丈夫だ、ロー!! 必ずこの船はオペオペの実が取引される島に辿り着く!!!”
“何を・・・根拠に言ってるんだよ・・・こんな船で嵐を乗り切れるわけがねェ・・・”
“ガキのくせに知ったような口を叩くんじゃねェ!! 船は絶対に沈まねェし、沈没もしねェ!!”
“・・・どっちも同じ意味じゃねェか・・・”
“なんだ、ツッコむ元気はあるのか・・・! 良かった・・・!!”
波の上で90度に傾く船にしがみつきながら、その人は嬉しそうに微笑み、ローの熱を測るように額をピタリとくっつけてきた。
“心配するな。おれはこんな話を知っている!”
“話・・・?”
“この海には心優しい人魚がいてな、船乗りが溺れそうになると必ず助けに来てくれるんだ!”
“・・・?”
“それだけじゃねェぞ! 方向が分からず遭難しそうになっても、その人魚が行き先を指し示してくれるそうだ・・・!! 素晴らしいじゃねェか!!”
この人はいったい何を言っているんだろう? と、ローは眉間にシワを寄せた。
万が一、人間を助ける人魚がいたとしても、そうタイミング良く現れるわけがない。
“コラさん・・・本気でそれを信じてるのかよ・・・”
“ああ、おれは信じてるぜ!!! だからロー、お前も諦めるなよ!!!”
───きっとあの人はおれに、“死ぬな、希望はある”と伝えたかったのだろう。
そして、彼が信じた通り、船はちゃんと島に辿り着いた。
運命の島、「ミニオン島」に。
人魚の加護があったかどうかは知らないが、あの時、二人は何かに守られるかのように小さな船で大嵐を乗り越えていた。