第6章 真珠を量る女(ロー)
見るからに戦い方など知らなそうな女だ。
事実、クレイオは武器を出すそぶりも見せず、海賊の目の前に持っている天秤を突き出しただけだった。
「私を殺してこの店にあるお金を全て奪いたいというなら、どうぞ殺しなさい」
「・・・・・・!!」
クレイオは座ったまま、真鍮製の天秤を海賊に見せている。
だが不思議なことに、男はあと数センチのところでクレイオの身体に達しようとしていた剣先を止めると、みるみるうちに顔が青ざめていった。
「この“印”の意味が分からないおバカさんは、この店のお金に手をつけたらどうなるかも分からない」
「・・・貴様・・・まさか・・・」
「どうしたの? 私は鑑定を変えるつもりはない。この“印”を傷つける勇気があるのなら、私を殺すことなど簡単でしょ」
「・・・・・・・・・・・・」
ローが立っている位置からは、クレイオの持つ天秤が死角になっていて、海賊が怯える“印”が何なのか分からない。
しかしその影響力は絶大らしく、海賊は剣をしまうと床に散らばっている宝を拾うこともなく、逃げるように店から出て行った。
「・・・・・・あいつらにいったい何を見せた?」
するとクレイオは宝石を拾いながらクスクスと笑う。
「別に・・・この店のマークを見せただけよ。影響力のある人がバックにいるから、女一人でもこの商売をやっていけるの」
「影響力のある人間・・・? 誰だ、そいつは」
この店には看板が無い。
いったいどんな“印”を見せたのか気になったが、ローが目を向ける少し前に天秤はケースの中にしまわれていた。
「貴方には関係のない人よ。それに、そう簡単に名前を出していい人でもないの」
むしろ、貴方は関わらない方がいい。
その方が“身のため”だ。