第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
こんな客は初めてだ。
彼はいったい・・・
「・・・貴方のお名前は?」
「おれか?」
強い酒を勢いよく喉に流し込みながら、野獣のような瞳を娼婦に向ける。
「ロロノア・ゾロ」
少しでも気を許そうものなら、一瞬にして喉元を食い千切られそうな恐ろしさすら感じる男。
しかし、これまでの言動はどれも、娼婦が知るどの男よりも優しいものだった。
「ロロノア・・・ゾロ・・・」
娼婦が自分から客の名前を聞いたのは、これが初めてだった。
一音一音、噛みしめるようにその名前を繰り返す。
そんな娼婦を見据えながら、ゾロも聞き返した。
「そういうお前は? 名前が分からねェから、さっきから呼びづらい」
「私は・・・クレイオ」
するとゾロはニッと笑い、クレイオの肩を掴むと強引にベッドに寝かせた。
「じゃあ、クレイオ。お前はもう寝ろ。たいていのケガは、寝りゃ治る」
それはルフィやゾロのような超人にしか当てはまらないことなのだろうが、その時初めて、クレイオの顔に笑みが浮かんだ。
「不思議な人・・・何もしないばかりか、自分は床に寝るつもりだなんて・・・」
「別にお前が床で寝たけりゃそうすればいい。その身体で床に寝るのはキツイだろうと思っただけだ」
「・・・どうして・・・そんなに優しいの・・・?」
「アホか。普通だろ」
クレイオが知る男はこれまで、客室に入ったとたんに豹変した。
洋服を剥ぎ取られ、床の上で犯されたこともあった。
男性器を根元まで咥えさせられ、胃液を吐くほど出し入れされたこともあった。
金を払った男達にとって、クレイオは性奴隷も同然。
しかし、この男は・・・ゾロは、“人間”として扱ってくれる。
「ありがとう・・・ゾロ・・・」
するとゾロは口の端で微笑み、さっさと寝ろとばかりにランプの灯りを消した。
そして、部屋が月明りだけとなると、自分は床の上に座り、ゆっくりと酒を口に流し込む。
その日。
クレイオは初めて、この部屋で男に抱かれずに夜を過ごした。