第6章 真珠を量る女(ロー)
それは自分が“コンマ何ミリ”の正確さを求められる外科医だからだろうか。
もともと神経質な性格で、好き嫌いがはっきりしているのもある。
だが、きっと・・・
一生消えず、一つ一つに深い意味を込めているからこそ、絶対に譲れないのかもしれない。
「キャプテン、どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
先ほどからずっと右腕を見つめたまま動かないローを心配したのだろう、白熊のべポが顔を覗き込んできた。
「右腕が痛い?」
「いや・・・どうも気に入らねェ」
「気に入らないって、なにが?」
“ハートの海賊団”が乗るポーラータング号は、海賊船としては珍しい潜水艦。
鉄の甲板の上でべポを背もたれにしながら胡坐をかいているローは、太陽の方へ両腕を伸ばし、忌々しそうに顔をしかめた。
「・・・歪んでる」
「昨日入れたタトゥー?」
「ああ・・・線がぶれているし、左右対称じゃねェ」
ローが言っているのは、前腕に彫った潜水艦のスクリュー・プロペラを模した刺青のこと。
まだ二日目ということもあり、触ると少しだけ痛みを覚える。
かさぶたにすらなっていないし、赤みを帯びているから、しばらくは清潔にしておかなければならないだろう。
しかし、ローが機嫌を損ねているのは治りの遅い傷口ではなく、彫り師のその“仕事”のせいだった。
「ぶれているかなー? きれいな丸だと思うけど」
「どこがきれいな丸だ」
熊の目には問題ないように見えるのかもしれないが、外科医の目にはイビツな楕円形にしか見えない。
「彫り師の野郎・・・長掌筋に沿うように彫れって言ったのに、適当な仕事をしやがって・・・」
「ちょ、ちょうしょうきん? 何言ってるの、キャプテン」
「・・・・・・・・・・・・」
べポにも分かるように説明するとすれば、中指の延長線上かつ前腕の中央部に中心がくるようタトゥーを彫れと言ったのに、中心から少しずれているばかりか、その線も微妙にゆれているということ。
「よくわからないよ」
「・・・もういい」
それでも首をひねっているべポに、ローは説明することを諦め、スクッと立ち上がった。