第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
身体が熱い。
それは、この真夏の夜のせいか。
それとも、“メラメラの実”を食した彼のせいか。
「ハァッ・・・ハァッ・・・もう無理だ」
クレイオの上に崩れ落ちるようにして倒れてきたエースが、口元をほころばせながら言った。
「もう何も出ねェ・・・! 1センチも勃たねェ」
泣き言を言うその顔はとても満足そうで。
少しクセのある黒髪を撫でてやると、幸せそうに微笑む。
「・・・ガキの頃は誰かに頭を撫でられようものなら、そいつを殴り飛ばしていたがな。というより、おれの頭を撫でようなんて大人はいなかった」
似たような思い出といえば、ガープのじじいにゲンコツを食らったことくらいか。
「そうとう可愛くない子ども時代だったようね」
「ははは・・・我ながら、かなりの悪ガキだった」
あの頃は全てを恨み、憎んでいた。
海賊王の息子というだけで“鬼の子”と呼ばれ、存在すら“罪”だと笑われ、生まれてきても良かったのだろうかと疑問だった。
「滅多に笑顔を見せねェしよ、誰にも心を開かなかった」
今のエースからは想像もつかない幼少期。
その彼を変えたもの。
「2人の兄弟を除いて───」
それは、生まれて初めての“家族”だった。
「エース・・・」
左の上腕に彫られたタトゥーに触れながら、懐かしそうに瞳を揺らしているエース。
クレイオは初めて会った時から気になっていたことを口にした。
「そのタトゥー・・・なんで、Sの上にバツ印があるの?」
「・・・これか? これはな・・・」
サボ・・・
ルフィ・・・
「兄弟の印だ」
そう言って、誇らしそうに微笑む。