第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「それなら、エース。お願いがある」
「ん?」
「まだ、朝までには時間があるわ」
今宵は年に一度の夏祭り。
身分や立場に関係なく楽しむ無礼講。
「もう一度、私を抱いて」
“聖職者”である教師も、少しばかり情欲を抱いても許してもらえるだろうか。
「あなたの火をもっと見せて欲しい」
“これはおれの命だ”
「火傷でもいい・・・あなたがここに居たという証を残して欲しい」
もう祭囃子は聞こえない。
花火が上がっていた時には夜空に浮かんでいた月も、もうその姿を隠している。
聞こえるのは、波の音だけ。
光を灯すのは、エースの瞳に映る小さなランプだけ。
その静けさの中、エースはクレイオに覆いかぶさるように体勢を変えると、背中の下に腕を差し込み身体を軽く抱き上げた。
「諦めろよ。今日はもう、お前を寝かせねェ」
「・・・もとより眠るつもりはない。“夏祭り”は朝まで続くのよ」
だからエース、もう一度見せて。
あの美しく堂々と花開く、大輪の花火を───
「ああ、分かった」
エースはクレイオに深く唇を重ねると、目の前の女への強い想いとともに、炎の熱を上げていく。
それは彼が生み出す愛情の結晶だったのだろうか。
再び愛し合うためベッドに深く沈み込む二人を取り囲むように、無数の蛍火が温かく光っていた。