第5章 花火 ~君に残す最後の炎~ (エース)
「ちょっと、エース! なんで私の部屋にいるの?」
「んー? そういや、なんでかな」
“寝ぼけてたのか、おれ”と笑っているエースに、クレイオは頭を抱えた。
「あのね、うちに泊める条件を忘れたわけじゃないでしょ?!」
「もちろん覚えているさ。お前に手を出さない、だろ」
「だったら、寝ている隙に入ってこないでよ。おかげで変な夢を見たじゃない」
「変な夢?」
エースは寝癖頭をボリボリと掻いていたが、もう一度大きなあくびをしたら目が覚めたようだ。
今度は腹をグーッと鳴らしながらクレイオを見る。
「そいつァどんな夢だったんだ?」
「どんな夢って、それは・・・」
あれ・・・?
どんな夢だったっけ・・・?
エースが目を覚ます前までハッキリと覚えていたのに、なぜか思い出せない。
「・・・とにかく、顔を洗って! ご飯はそれからよ」
「へいへーい」
海賊だから口答えの一つもするものかと思えば、空腹の方が勝っているのか、エースは素直に洗面所へ向かっていった。
そこでふと、あることを思い出す。
「エース! 一つ聞きたいんだけど」
「あー?」
バシャバシャと大きな水音と一緒に、腑抜けた声が聞こえてくる。
「窓のカーテンを開けたのはあなた?」
「カーテン? 知らねェ」
「・・・じゃあ・・・いったい、誰が・・・?」
カーテンを閉めるのは習慣になっている。
ただ“閉めたはず”と思い込んでいるだけで、実際は開けたまま寝てしまったのだろうか・・・
だけど・・・不思議。
窓から差し込む朝日はまるで、“エースを起こしてくれ”と頼むかのようにクレイオに朝を告げていた。
そして・・・
眠るエースを優しく見守るかのように、窓の向こうではハイビスカスの花が揺れていた。
「・・・きっと、エースが寝ぼけて開けたのね」
深く考えたってわからない。
少々強引だろうと、一番可能性の高い結論で自分を納得させ、クレイオは朝食を作るためにキッチンへ向かった。