第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
「しかし、お客さん。泊まるなら、女を買っていただかねェと」
「女? いらねェよ」
性欲などの煩悩は、剣の道を目指す者にとって邪魔なだけ。
やりたい盛りの19歳とはとても思えないことを口にするゾロに、店主は困った顔で頭を掻いた。
「見たところ剣士のようだが・・・女断ちでもしているんで?」
「金は払うっつってんだから、別に女まで買わなくてもいいだろ」
見れば、先ほどから店の隅で待機している娼婦達が、熱っぽい視線を絶えずゾロに送っている。
様々な客層に合わせてということなのだろうか、童顔な女から熟女、豊満な女から痩身の女まで揃っていた。
「別に“添い寝”するだけでもいいわけですし、女に“興味”がないっていうならウチには───」
店主が意味深に笑いながら何かを言いかけた、その時。
客室となっている二階から、ギシリギシリと階段を軋ませながら、一組の男女が降りてきた。
「・・・・・・・・・」
一目見て、男の方が堅気の人間ではないと分かる。
常人の二倍の太さはあろうかという筋肉に覆われた腕には、びっしりと入れ墨が彫られている。
目つきも鋭く、それまでパブスペースで飲んでいた客達は一瞬にして静まり返った。
おそらく、この町を縄張りにしているギャングだろう。
それでもゾロの興味を引くような強さは感じられない。
むしろ、ゾロの視線を引き付けたのは、その隣でおぼつかない足取りで歩く娼婦だった。