第2章 ある娼婦と海賊のはなし ~ゾロ編~
ゾロがその店を選んで入ったのは、看板に「酒場」の文字が書いてあったから。
理由はただ、それだけだった。
そこが売春宿も兼ねたパブだと知ったのは、カウンター席に座り、ビールを一口飲んだあと。
“一口”と言っても、すでにジョッキ半分の量は喉の奥へと消えていたが・・・
「お客さん、どの子にすんだい?」
「あ?」
何かつまみになるようなものはないかと尋ねようとしたところ、バーカウンターの向こうにいた店主から先に声をかけられ、ゾロは片眉を上げながら鋭い目を向けた。
「そう怖い顔をしないでくださいよ」
ただでさえ、腰に三本の刀を差している、見るからに“危なそうな男”だ。
店主は客の機嫌を損ねてしまったと勘違いしたのか、少し声を上ずらせながら続ける。
「見たところ、旅の人のようだ。泊まっていかれるのなら、良い子を紹介しようと思っただけで」
「へー。ここ、泊まれんのか?」
「ああ、女を買ってくれるならな」
「・・・・・・・・・・・・」
ゾロは空いたジョッキにビールを注ぎ足してもらいながら、チラリと薄汚れた店内を見渡した。
さすが、港町の酒場とだけあって、客層は堅気の人間だけではなさそうだ。
明らかに柄が悪い男3人組が若い女を侍らせているし、親子ほど年が離れた男女がソファで親密そうにしている。
ゾロはただ酒が飲めればいいと思っていただけだが、船がこの島に着いた時のナミの言葉を思い出し、面倒臭そうにため息を吐いた。