第4章 真夏の夜の夢(ルフィ)
それからどれほどの時間がたっただろう。
すっかりと夜が更け、クレイオも深い眠りについていた、その時。
開け放していた窓のカーテンが、そっと揺れる。
それは風が動かしたというよりは、誰かの身体に触れて動いたようだった。
「クレイオ」
フワフワと柔らかな綿に包まれる夢を見ていたクレイオの耳に、遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「クレイオ、クレイオ」
誰だ・・・?
こんな時間に自分の名前を呼ぶのは。
ゆっくりと目を開けると、窓辺に誰かがしゃがんでいるのが見えた。
真夏の夜は寝苦しいから開け放していた窓。
不用心と思われるかもしれないが、この島で一番醜い老婆が住んでいることで有名な家に、盗みに入ろうと思う者などいない。
揺れる白いカーテンがその人物の身体を時折隠したが、不思議と恐怖は無かった。
「起きろよ、クレイオ」
この声を、自分は知っている。
「・・・ルフィ・・・?」
身体を起こして窓の方を見ると、月明かりを背にした少年は嬉しそうに微笑んだ。
「おれ達、明日の朝には出発しなきゃいけねェんだ」
「そうなのかい・・・」
「だからよ、これから行こう」
「え・・・?」
まだ覚醒しきっていないクレイオは、窓辺にいる少年と会話をしているのが夢なのか現実なのか分からないでいた。
しかし、ルフィはお構いなしに日焼けした手を差し伸べてくる。
「好きな所へ連れてってやる。どこへ行きたい?」
白いカーテンに、白い月明り。
まだ霞む目では、彼が本当にそこに存在しているのかすらも分からない。
でも、もしこれが夢ならば・・・許してもらえるだろうか・・・
クレイオの口からは自然と、押し殺していた願望が零れていた。