第3章 ある娼婦と海賊のはなし ~サンジ編~
時は遡ること、2日前。
その日、サンジはいつものようにキッチンで一人、洗い物をしていた。
麦わらの一味はとにかくよく食べる。
毎回使用する食器は数も多ければ、そのサイズも相当のものだ。
皿洗いは時間のかかる大仕事だが、サンジにとっては手慣れた作業・・・のはずだった。
パリンッ・・・
すすいだ皿を水切りカゴに入れようとして手が滑り、一枚の皿が床に落ちて割れてしまう。
「・・・やべ!」
皿を割るのは、ルフィやウソップならよくあることだ。
しかし、食材や調理器具と同様、食器にも敬意を払うサンジにとってこれは、ナミが他人にお宝を無償で譲るのと同じぐらい、“あってはならないこと”だった。
「・・・・・・・・・・・・」
床に飛び散った皿の破片を拾いながら、サンジは眉間にシワを寄せる。
尖った角が右手の人差し指を切ったからじゃない。
皿を割ったこと、料理をする手を怪我したこと以上に“あってはならないこと”が起ころうとしている。
「・・・クソ・・・来やがったか・・・」
ポタポタと床に垂れる真っ赤な血。
まるで女性が唇に引くルージュのようだ。
ダメだ、考えてはいけない。
「ここは船の中だぞ・・・ナミさんとロビンちゃんがいる・・・」
サンジは左手で右腕を掴んだ。
まるで自分自身を取り押さえるかのように。
「しばらくどっかに籠るしかねェか・・・」
苦しそうにそう呟いた時だった。