第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「───おい、ルフィ」
居ても立っても居られないのか、フランキーとチョッパーを除く全員が集合しているダイニング。
いつもなら騒がしいその場所も今ばかりは重い空気が漂い、ブルックが奏でるソナタが響くのみだ。
壁にもたれかかり、胡坐をかいた姿勢で居眠りしているものとばかり思っていたゾロが右目を開け、ダイニングテーブルに座る船長に視線を向けた。
「どうする」
ゾロならばフランキーを力づくで止めることもできるだろう。
そして、フランキーとチョッパーの“衝突”を感じ取っていたのは彼だけではなかった。
キッチンでナミとロビンのために紅茶を淹れていたサンジも険しい顔でルフィを見下ろす。
「クレイオちゃんを死なせるわけにはいかねェ。それに、このままだとフランキーは人間として越えちゃならねェ“一線”を越えるぞ」
フェミニストのサンジは女性の命が散っていくのを黙って見てはいられない。
何より、手術が長引けば長引くほど献血をしているウソップのことも気がかりだ。
サンジは船長の許しさえあれば、今すぐにでもドアを蹴破って手術を止めさせるつもりだった。
「ルフィ」
もう一度名を呼んだゾロとサンジの視線の先にいるルフィは、静かに目を閉じている。
ここから離れた場所にある医療室の中で起こっていることを肌で感じ取ろうとしているかのように。
「・・・・・・・・・・・・」
数分の間の後、首から下げていた麦わら帽子を被り直したルフィ。
「いいや、お前達は何もするな」
帽子の下から二ッと笑うその顔を、人は“悪魔のような微笑み”と呼ぶかもしれない。
「これはおれ達の仲間の“真剣勝負”だ」
だが、その笑みの根底となるものは純粋な仲間への信頼。
そして、フランキーからの勝負を受け入れた女兵士への敬意。
「フランキーは手術を成功させる。チョッパーは海兵女を死なせない。ウソップも大丈夫だ。そして・・・」
“おれ達が間違っていたって証明してみせろ、海兵女。おれ達が与える痛みに耐えてみろ。そんで───”
「海兵女は必ずおれ達の敵になる」
帽子の影に片目が隠れて凄みが増すルフィ、彼の仲間に対する絶対的な信頼は、もはや脅迫と言っていいほどの強さだった。