第2章 TULIP
「・・・行くぞ」
『忙しいところごめんね、最後に話したかったんだ』
あれから思いっきり飲んで騒いだ私達は、終電が終わる前に帰る事にした。
見送りするホストを選べるって事で私はゾロを指名したのだ。
正直、誰でも良かったのだが変な別れ方をした為、ゾロの様子が気になったのもある。
『ちょっと、待って』
スーッと流れる動作で私の手荷物を持ったゾロは出入り口へ歩いて行く。
『ありがとう』
扉を開けて待っていてくれたゾロ。
一見冷たそうな雰囲気のゾロがすると様になるねと言いたくなったが、ここはお礼を言うだけに止めた。
「・・・別に」
元々口数は少なかったがより一層減った気がする。
やっぱり触ろうとしたのがダメだったのかな?
それ以外、ゾロが不機嫌になる理由が思い当たらない。
『・・・』
「・・・」
黙ったまま階段を登る。
ビビ達は既に階段を登りきったみたいで上から微かな話し声が聞こえていた。
『どうしたの?』
階段の真ん中で立ち止まったゾロ。
追い付いてしまった私は、首を傾げる。
「・・・いや、別に・・・」
そう言って視線を逸らしたゾロ。
少し話しをしたいと思ったが無理そうだなと思い、私は先に階段を登り始めた。
「・・・・・」
『うん?』
突然呼ばれて、振り返った私はゾロを見下ろす形になってしまった。
呼んだのにゾロは何も言わず、また沈黙が訪れる。
「〜、まだ?」
『あっ、はーい!
ゾロ、ビビが呼んでる』
まだ来ない私達に痺れを切らしたビビの催促の声。
私は、また歩き出そうと足を上げた。
『!!』
急に右手が掴まれ、バランスを崩す。
歩き出そうと足を上げていたのと酔った身体のせいで踏ん張りがきかない。
落ちる!と身構えた私の身体は、その瞬間暖かい体温に包まれた。
待っていた衝撃の代わりに、シトラスのほのかな香りが鼻を掠めた。
「悪ぃ・・・ここまで軽いとは思ってなかった・・」
そっと顔を上げると至近距離にゾロの顔がある。
その瞳には、焦った様に動揺の色が見えた。