第5章 HYACINTH
《済みません。本当に済みません・・・》
スマホから聞こえる声に途方にくれた。
出来れば夢であって欲しい。
夢じゃなきゃ、やってらんない。
「どうした?」
スマホを持ったまま、呆然と立ち竦む私に社長は眉を寄せる。
ゆっくり、振り返る私を見た社長は目を丸くし 咥えていた葉巻を落とした。
「?!」
『・・・事故って・・搬送中・・・花が・・・・・イベント・・間に合わない・・』
途切れ途切れに話す私の手からスマホを奪い取る社長。
「俺だ、クロコダイルだーーーあぁ、落ち着けーー手短に簡潔に言えーーーー分かったから簡潔に言えーー」
耳にスマホを当てたまま、社長はギュッと私を腕の中に抱き込んだ。
ふわっと香る、葉巻独特な甘い香りとムスク系のコロンの匂いが優しく私を包む。
「ーー怪我はーーーあぁそれなら良かったー分かったーーーで、無事だった花はーーーーーーーそれはこっちで動くーーそうだ迅速に頼むーーあっ?気にするなーー大丈夫だ、任せとけーー切るぞ」
電話を切った社長は、ゆっくりと身体を離し私の顔を覗き込んだ。
「・・・運転手とバイトの女は無事だ。怪我も大した事ねぇ」
『・・・・・本当?クロ君』
「あぁ、俺がお前に嘘付いた事ねぇだろ?」
『・・あぁ、良かった。本当に良かったぁ』
足の力が抜けて崩れ落ちそうな私を社長は抱き留めた。
『あっ、すみません。社長』
思わぬ事故の報告の動揺から抜け出した私を見て、社長はフッと笑みを漏らす。
「落ち着いたところ悪いがトラブルは解消してねぇ」
『・・・あっー!花!イベント!!』
「バイトに花の在庫確認を頼んだ。
2人は念のため病院に運ばれたため、搬送中のトラックの花は事故現場にそのままらしい」
『事故現場は何処?!私直ぐに引き取りに行く!!』
今日、夕方から練りに練ったイベントが開催される。
例のランジェリーのショー。
そのショーに生花を使う予定で開催当日に搬送中だったのだ。