第5章 逆襲よろしく!
第二クオーター残り一分半。試合ペースは落ちているものの勢いは失われていない。日向を中心としたチームプレーは紫苑の目にとって新鮮だった。
「…監督!何か手はないんですか?」
「前半のハイペースで策とかしかける体力残ってないのよ。せめて黒子君がいてくれたら…」
思わずもれた本音。誰もがそう思っていた。相手のエースの弱点が黒子であるならばそれに太刀打ちできるのは黒子だけ。
彼にプレーしてほしい、とは裏腹に紫苑の中にはもうこれ以上させたくないという不安も大きく募っていた。落ち着かない自分の中で、怖い、という思いが頭をもたげている。
「…分かりました。」
目を伏せ唇を半ば噛みしめるようにしていると、先ほどまでいた黒子の姿がなく当の本人は不安定にも立ちあがっていた。
「おはようございます…じゃ、行ってきます。」
ゆっくりと歩き出した黒子を止めることもできずただ膝をついて目を見開いた。ダメだ。行かせてはならない。怖い、見たくない。
紫苑の代わりにリコが立ちはだかる。
「ちょ…何言ってんの!」
「でも今行けって、監督が。」
「言ってない!」
押し問答を始める二人。いまだに紫苑の頭の仲は黒い雲で覆われていた。
「じゃぁ、出ます。」
「おい!」
「僕が出て戦況を変えられるなら、お願いします。それに…約束しました火神君の影になると。」
そう断言する黒子の意思は強かった。とうとうリコはため息をつくと苦い顔をしながらも選手交代を決めた。
「わかったわ、ただし少しでも危ないと思ったらすぐに交代します。」
小金井とすれ違い際にハイタッチをしコートへと進む黒子の腕を紫苑は素早く掴む。驚いて振り返る視線と、不安で泣きそうになっている視線がぶつかる。
「大丈夫です。たかが怪我ですから。」
「そのたかが怪我で、あんなことが起こったんだよ。」
「大丈夫ですから。それに、今行かないと後悔します。」
後悔という言葉に紫苑の手が緩み、その手は離れた。