第4章 勝てねぇぐらいがちょうどいい
「よっしゃぁ!…あ?」
ガッツポーズを決める火神。やけに右手が重い。気がつくと、ゴールが握られていた。思わず上を見上げるとそこには白い板があるだけで、肝心のゴールはない。
「うおー!ゴ―ルブッ壊しやがった!」
「信じらんねぇ!」
「あっぶねぇ、ボルト一本錆びてるよ…」
伊月が眉をしかめながら指摘すると、笠松が答えた。
「それでも普通ねぇよ。」
「リングって思ったよかでけぇんだな。」
気がつくと紫苑の横にはリコはいなくて竹内に頭を下げていた。紫苑は笑い声を押さえながらリコに並び頭を下げる。黒子も頭を下げる。
「スミマセン。ゴール壊しちゃいました。これじゃ試合にならないんで、全面側のコートを使わせてもらえませんか?」
怒り心頭で酷い形相の竹内に紫苑はにこやかに言った。
「安心してください。壊してしまったゴールは私が弁償しますから。」
弁償という言葉に少しは機嫌を良くしたのか、竹内は全面コートを使うことを許可してくれた。紫苑は黒子と火神と目を合わせて首をすくめた。
実はこれ、先ほど更衣室の中で考えた黒子と紫苑の作戦の仕業。ゴールがさびているのを見ぬいた紫苑が、火神なら壊せると踏んだのだ。そして、事はその通りに進んだ。