第11章 再び窓は閉められた。(国見英)
「俺、聞いてないんだけど」
「そりゃ、い、言ってない…からね…」
4月ーーー。
高校の入学式を間近に控えたこの日、花の匂い混じりの風が爽やかに吹いていると言うのに、国見家の二階にある一番南側の一室の空気は重い。
ベッドに座り腕を組んでいる男、国見英。
その正面の床に正座をして座る女、。
甘い空気など微塵もないこの二人の関係は幼馴染み。
それも幼稚園に上がる頃からなので筋金入りだ。
「あの、英…怒ってるの…?」
「お前には怒ってない様に見えんの?」
国見のいつもの冷めた目は更にその冷たさを増しを見下ろしていた。
彼が怒っている理由。
物心ついた頃からずっと隣にいて同じ道を歩いて来た二人。
同じ幼稚園、同じ小学校、同じ中学校、当然同じ高校へ進むのだと思っていた。
だが、は違う進路を選んだ。
しかもそれを今の今まで国見にはバレない様に隠していた。
「よりにもよって…烏野かよ」
呟いた国見の言葉に温度はない。
さほど遠くない学校とは言え、他校。
授業のサイクルも行事の在り方もきっと異なってくる。
そうすれば、今までみたいに一緒には居られなくなる。
「英が…及川先輩や岩泉先輩に憧れて青城に行くのはわかってた、私も……そうするつもりだった」
「………」
国見は黙っての話に耳を傾ける。
別に及川や岩泉に憧れて青城に行く訳じゃないけれど、今ここで訂正していたら話が進まなくなりそうなのでそのまま流す事にした。
「でも、私も…やりたい事、見つけたの…っ」
それまで俯いて話していたがその時初めて国見の瞳を見つめた。
「烏野のジャージを着て、全国に行きたいの」
「………はぁ…」
国見は小さく溜め息を吐いた。
いつもモタモタと自分の後ろを付いて来るくせに、一度自分で何かを決めたらもう曲げない。
そんな彼女の性分は分かり切っているのだから。