第9章 シンクロハートビート。(菅原孝支)
昼休み、クラスの男子が話していた会話が頭から離れない。
『初めての女はメンドクサイ』
その一言は私の心に物凄く突き刺さった。
それ以上の話を聞くのが怖くて私はクラスを飛び出すほかなかった。
菅原先輩……。
先輩も、メンドクサイって思いますか?
「はぁ……」
自動販売機の前まで来て、大きな溜め息をついたところで足を止める。
あんな話を聞いてしまったら、楽しみにしていた明日の約束も憂鬱になってきてしまう。
「どーした?おっきい溜め息ついて」
「ひゃあっ…!す、菅原先輩…!!」
「ごめん、そんな驚かしちゃったか?」
「い、いえ…!」
「あ!…明日、楽しみにしてるな」
周りの人に聞こえない様な小さい声で耳元で囁かれる。
ドキリと、胸が跳ねる。
先輩が近くにいるドキドキと、明日をどう過ごすかのドキドキ。
そう、明日は両親が仕事で遅くなるって話だったので…先輩が我が家に初めて遊びに来ます。
付き合って半年。
キスも数えるほどしかしていないけれど済んでいるわけで、そろそろ次へのステップ…なんてちょっと考え出したりしていた矢先の『メンドクサイ』発言。
それを聞くまでは楽しみで授業も頭に入らないほどだったのに、別の意味で今は頭に入らない。
私の心は、穏やかではありません。
「?」
「は、はいっ…!」
「何か、色々考えてる?」
「え…!?」
「さっきから百面相してる(笑)」
そう言われて慌てて頬を手で押さえる。
「あ、もう昼休み終わるな…じゃあ明日な!」
「……菅原先輩っ」
「ん?」
「明日、私も……楽しみにしてます!」
教室へ戻ろうとした先輩を呼び止め、そう伝えた。
そしたら、先輩はすごく嬉しそうに笑ってくれた。
余計な事で悩んで先輩に心配掛けちゃう方が、ダメだよね。
そもそも、そう言う雰囲気になるかもわからないのに…。
そう自分に言い聞かせて私は教室へと戻った。