第6章 ブラック注意報。(影山飛雄)
今の状況を、言葉にするのなら『袋の中の鼠』。
もしくは『蛇に睨まれた蛙』。
鼠であり、蛙である私はどうにかこの状況を回避できないか頭をフル回転させていた。
「影山くん…あの、帰ろ…?ね?」
「…………」
「私が、不注意だったのは謝るから…これから気を付ける、し…」
「……でも見られたろ」
「え…」
「見られただろーが!!ボゲェェ!!しかもよりによって月島なんかにだっ!!」
怒鳴られて肩を竦める。
彼氏である目の前の影山くんがご立腹なのには理由がある。
今日の部活でドリンクを作りに水道へ行った時だった。
固い蛇口を力任せに捻ったら、急に開いた蛇口から勢い良く水が出てまんまとそれを被ってしまった。
体操着も下に来ていたキャミソールもびっちょりと。
予備の体操着を着てジャージを羽織って部活は問題なく続行出来たのだが、問題はその後。
私と影山くんと珍しく月島くんが部室に残っていた。
「ふぅん…マネージャー、意外と大人っぽい色付けるんだね」
「……色?」
「シャツの下、丸見えだけど隠さなくていいの?王様彼氏キレるんじゃない?」
「!!!」
体操着から制服に着替えた私はすっかり忘れていたのだ。
下着を隠すためのキャミソールはびしょ濡れで鞄の中のビニール袋の中だって事を。
「ひゃあぁぁぁっ!!」
「じゃあ、お先でーす」
月島くんは今のを言うために残っていたんだ…!
今さらながらにそう気が付いた。
「…」
「…!!」
ふ、振り向けない。
本能が逃げろと言っている…気がする…!
そーっと扉へ向かおうとすると肩をガッシリと掴まれた。
「何逃げようとしてんだ!!」
「だって…怒ってそうだったからぁー!」
「あぁ?!当たり前だろーが!!」
そして冒頭へ戻る。
斯くして私は愛しい愛しい彼に蛙のように睨まれ、鼠のように捕まったのだ。
「俺にも…見せろ」
「え?何を…?」
「下着だよ!!」
「…!ぶ、部室で何言ってるの…!!」
「月島に見せて俺に見せらんねーのかよ!!?」
「み、見せた訳じゃないもん…!」
それじゃ、私ただの痴女じゃないか…!
ジリジリと距離を詰められるも、一定の距離を保つ為に私は後ろへと下がる。
が、それにも限界が来る。
あっという間に背後に壁が迫り、逃げ場はなくなってしまった。