第5章 唇にハニー。(月島蛍)
風も冷たく感じるようになってきた秋の放課後、体育館の照明点検で今日は部活が休みになった。
部員である月島と、マネージャーであるは肩を並べて帰路に着く。
同じクラスであると同時に恋人同士でもある二人は半年ほど前に付き合い始めた。
「まだお日様出てるのに寒いね」
そう言うとは鞄からリップクリームを取り出して自分の唇へと塗る。
その様子を横目で見ながら月島はマフラーで隠れたままの口を開いた。
「最近見る度に塗ってるね、ソレ」
「うん、すぐ乾燥しちゃうし…今日クラスの友達に乾いてるぞって言われちゃったんだ」
塗り終えたリップクリームを鞄にしまいながらはアハハと笑った。
「ふぅん……」
の言葉の言い回しに月島は引っ掛かるものがあった。
「…ねぇ、それって男?」
「え…?あ、バスケ部の田口くん、今私隣の席で」
「………」
「蛍くん?」
会話とは言葉のキャッチボールだ。
質問の答えを返したのに、その後のボールが月島から返って来ない。
は月島の顔を見上げる。
よりも遥かに上にある月島の顔。
その整った顔は眉が寄せられ不機嫌さが漂っていた。
これは、まずい。
半年付き合って来たにはわかる、これは明らかに機嫌を損ねてしまった時の顔だ。
考えられる理由は一つ。
「け、蛍くん…田口くんには帰りがけにたまたま言われただけで…」
の唇を指摘したのが女友達ではなく、隣の席だと言うだけの田口だったと言う事。
「……あっそう」
「……っ」
月島が少し歩みを速めただけで簡単に二人の距離は開いてしまう。
は置いていかれないように小走りになって着いていく。
「ま、待って…!蛍く…わぷっ!」
急に立ち止まった月島の背中には顔からぶつかってしまう。
「ごめ…っ」
慌てて謝ろうとした彼女の言葉を遮るように月島は自分の唇で彼女の口を塞いだ。
「…別に乾燥してないみたいだけど」
「…!」
まさか。
それを確認するためにキスをしたのだろうか。
あの月島蛍が、こんな道端で。
驚いている間に手を掴まれ、あれよあれよと言う間に月島宅まで来てしまった。