第1章 信じることのできない出会い
『さっむ…』
今日は仕事が早く終わったと思ったらいきなりの残業を渡され、結局帰るのは電車が残り一本というきつい時間。
そして服装は薄着の下着に肌着にトップス、ジャケット、スカートにパンプスという負の連鎖。
『11月ってこんなに寒かったっけ…』
あまりの寒さに独り言をつぶやいてしまう。
今年の11月は寒波がなんたらとかで例年より寒いとニュースでやっていたような気がする。
なぜそれを知っていて私は暖かい恰好をしなかったのか…今さら後悔しても遅いのだが。
駅への道は一応開けた通りなのだが、当たり前のように人は少なく、音はほとんどしない。
何よりも明かりがポツポツとついているだけで薄暗い。
夜道は苦手だ。
ふと、一台の真っ黒のクルマが私の横にとまった。
逃げなきゃ、と私の本能のようなものがせかしたが、もう遅かった。
「こんばんは、おねーさん。危なくない?夜道にひとりとか。送ってくよ~」
今の小学生でもこういわれたら一目散に逃げていくだろう。
でも、足が動かない。
口が、開かない。
喋れない。
男性が、怖い。
「ごめんね、彼女一人じゃないんだよ。だから、どっか行ってくれないかな?」
私の後ろからしたその声は、誰かに彼女を取られそうになったらしい。
お気の毒に。
ん?私の後ろから声…?
何とか首は動き、振り返ってみる。
そこには、
「し、し、霜月隼ーーーーーー!?」
と、まず私をさらおうとした?男が大声をあげた。
その大声は静かな通りによく響き渡り、数少ない交通人がこちらに注目する。
「まあ、この人はもらっていくね。じゃあ、ごきげんよう。」
そういって、その‘霜月隼’は私の手を引っ張りどこかへと連れていく。
私はことが早く進みすぎてなにがなんだかわからないままやや速足で通りをまっすぐ歩く。
彼の手は、暖かさもありながらどこか冷たかった。
そして、真夜中の街の中に光る白い髪はどこか静かさがあって、まるですべてをつつみこむようなものだった。
「大丈夫?」
『えっ…』
いきなり話かけられたのでびっくりしてしまった。
「君は…男性が怖いのかな?」
『あ、いや…』