第2章 口内炎
「………アリス」
いつの間にか私は、ぎゅっとメアの背を抱いていた。メアが戸惑うように唇を離し、私を見つめる。
それから不意に目元に唇を押し当てられて、反射的に目を瞑った。
「……?」
「泣くほど痛かったのか」
「あ……、泣いてた?私」
「……かわいい」
「何でそうなるのよ」
またにたつくメアの胸を軽く小突いて、もう噛みつかれないようにともたれかかり肩に頬を乗せる。
そんな私の背を、彼はうさぎでも撫でるような手つきでそろそろと撫でた。
(痛めつけられても愛おしいなんて、私もずいぶん…)
「はあ……」
「何。まだ消毒が足りないのか?」
「嬉々としないで。舐められすぎてじんじんする」
「オレもロ内炎になっていれば良かった……」
「だめ」
「なんで」
「だめだから」
文句を言いたげに唇をとがらせるメアを横目で見詰める。
同じ痛みを欲するのは、相手を知りたがる心の裏返しでもあるような気がする。
痛みを得ないとわからないこともあるから、怪我をするな、傷つくなとは言わない。メアの心はまだわからないことばかりだけど、絶対に一人にはしないと、何度目かに心に誓った。
END