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【ダメプリ】アメジスト 

第2章 口内炎



赤い舌がのぞく唇は弧を描いている。ああ、あのメアの顔だ。
痛みに対して彼は敏感で、どんな風に感じるのか、どう痛むのか、事細かに説明を求めてくる。そして相手が何故そう感じるのか因果関係でも探るように、同じ痛みを自分にも課そうとする。
おそらく、彼の過去が関係しているんだろうけれど。

だから今だって、少し傷を突つき舐めては顔を離し、零距離で見つめて。

「なあ、痛い?」

嬉しそうに聞いてくる。

「痛いよ……、決まってるじゃない。 はなして」

「ふ、ふふ……そうか、痛いんだ。痛いよなあ、」

「近いから、ちょっ…、ふぁ っぃ」

満足そうに笑うメアがまた唇を重ねてきて、初めよりも更に患部を痛めつけてくる。
舌は温かくて柔らかいのに、私の頭を支える手は力強く抗うことを許さなくて、何より声と視線で、彼が静かに興奮しているのがわかる。

「ここ、オレが噛んだところだろ。可哀想に。オレが噛みついたりしたから怪我したんだ……くく…っ、」

ああ、メア。
こんな時の彼の声を聞くと、私は妙に涙が出そうになる。初めのうちは怖かったのに、やるせなくて切なくて、胸が苦しくなる。
痛みで人を殺したというメア。自嘲のように、諦めるように、悲しむように笑って言えてしまうほど、何かが歪んでしまっている。

「アリス……なあ、まだ痛いか?でもこれも傷なんだから、ちゃんと消毒しないと治らないぞ」

わざと傷つけて、痛いのか、どう痛いのか聞いてくる。その心の裏で、傷つけたのは自分だと自白する事で断罪を求めているんだろうか。
メアは誰かを殺すような人じゃない。それなのに誰かを傷つけてしまったのなら、殺したと言い切ってしまうほどの事なら、きっと酷い罪悪感に苛まれたはずだ。

けれどその罪悪感を、見てくれる人がいなかったら。
叱ってくれる人が、罰してくれる人が、罪を償う相手や場所が無かったら。

罪悪感に押し潰されそうなたったひとりの心は、自分で守るしかない。硬い殻に閉じこもって。
キュアランの人形が脳裏をよぎる。

(メア……)

だから私はこんな時、メアを強く責める事ができない。
放っておけばいつの間にか沈んで消えていってしまいそうな彼から、目を離すことができないのだ。


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