第2章 口内炎
予断を許さない、まさに一進一退の攻防をしばらく繰り返した後(進んではいないけど)、ついに私の背は本棚にぶつかった。したり顔でメアが距離を詰めてくる。
尚も寄らせまいと足掻いて前に伸ばした私の手はいとも簡単に片手でまとめられ、その端整な顔にひどく優しげな笑みが浮かんだ。
ああ、神様。
「ねえ、やめよう?口内炎なんて見ても楽しくないでしょう」
「オしは楽しい。アリスを見ていられるならなんだって楽しい」
近寄る顔。吸い込まれそうなほどに艶のある瞳がほんの僅かに細められて、睫毛の影になり色が濃くなる。
「なあ、見せてよ」
「弄ったりしない?」
「ちよっとだけロあけて」
言いながら、メアはどんどん体を寄せてきた。いつのまにこんなに大胆になったんだろう。
熱い手と反対に少しひんやりしたメアの膝が私の太腿の間に割り込んできて、かぁっと頬が熱くなる。
「ち、ちょっとメア…!」
その、少し口を開いた隙に。
「ゃんっ……ふ、」
「……」
深くロ付けられて、私の言葉は吐息のまま呑まれる。
掴まれていた手や肩が一瞬強張ったものの唇に触れる温度があまりにも柔らかく力が坂けて、本棚とメアに狭まれた私は完全に身動きが取れなくなった。
絶対に口づけだけじゃ終わらない。何をされるんだろうというほんの少しの恐怖と、胸の高鳴り。
どきどきする。
「メ、ぁ…っ 、!」
舌で唇の上をするすると撫でながら啄まれて、緊張よりも羞恥が勝った私の力は抜けてしまっていた。それをじっと見つめるメアの視線に、居たたまれず目を閉じる。
そしてその瞬間、ロ内に鋭い痛み。
「んんッ…ゃ 、ぅ」
「ん、……」
低い声と息と共に、また痛みが走る。嫌な予感は的中した。舌先で口内炎の箇所をぐりぐり舐め回されている。
痛みに思わず顔をそむけようとしたけれど、いつのまにか後頭部を掌で支えられていて、逃れる術がない。私の手が空を泳いでメアの肩を掴む。
やめて、と言いたくてぎゅっと閉じてしまっていた目を開けるとぞっとした。メアは細めた瞳で食い入るように私の顔を見て、笑っているのだ。