第7章 波乱ーII—
新年度になってから1ヶ月が経ち、ようやく1年生の入部ラッシュが落ち着いた頃。
久しぶりに立ち寄った図書館のカウンターに彼女はいた。
本を持って行き、声をかければ顔を上げてこちらを見る目。
借りたい本とカードを渡して、受け取る。
本来それだけの事が、あの時はそれだけではなかった。
俺のカードを見て動揺した彼女。
あまりに驚いた顔をするから、何かおかしい事でもあったかと気になって、
外に出て確認したら目に入った担当者のサイン。
「……あぁ。」
『赤石』
1文字違い。
おおかた俺のフリガナ欄を見て一瞬自分の名字と勘違いした、なんてところだろうか。
これならばあの驚いた顔も少し引きつった笑顔も説明がつく。
………珍しい。
ここまで自分と似た名字に会うのは初めてだったからか、
謎が解けた後に浮かんだのは、ちょっとした親近感。
彼女への興味が湧いたところで、ふと冷静になる。
これはなんてことのない偶然。
これだけで何があるわけでもないし、何かの機会を作る気もない。
それに、きっともう会うこともない。
名前が似ていた。それだけのこと。
……でも、確かに記憶に残る出来事。
俺の中で、彼女が『受付の人』ではなく『赤石さん』になるには十分な出来事だった。