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ひとつだけ 【ハイキュー!!】

第6章 波乱







「…っ!!」




まるで時が止まったような感覚。
静まった一瞬を破ったのは、木兎先輩。



「ヘイヘイ、こはる!!今のすごい良かったじゃん!!!」

「…へ? って、いたたっ!」



頭が追いついてない私の背中を、近づいてきた先輩がバンバン叩いてくる。とりあえず、痛い。

赤葦さんを見たら、びっくりしたような顔をしていたけれど、笑いながら 良かったよ って言ってくれた。
トスを上げはじめてから初めて聞くアドバイス以外の言葉に、胸が熱くなる。

そして実感。


……今、私 出来た…?


記憶を数秒前に巻き戻す。
自分の出したトスが、強烈なスパイクになって床にめり込んでいった、その時に。
思い出して、体の奥から湧いてくる なんともいえない興奮。



…出来たんだ。トス、上げられた……。

…あぁ、これ、懐かしい感覚。
忘れたフリをしていた、最高の一瞬。


これは私が今までずっと取り組んできたことでもないし、試合のような真剣勝負でもない。
だから、本物のそれに比べたら遠く及ばないだろうけれど、

でも、確かな“本気”の時の気持ちよさ。

悔しさの先の快感。


いくら自分より優れた人がいようとも変わらない、譲れないこの感覚。


久しぶりのそれの欠片は、記憶の中のそれと混ざって胸をグワァっと埋め尽くして。





「……先輩っ、痛いですっ…!」




あっ、悪い!って言いながら全く悪びれる様子のない木兎先輩からの、未だにやまない背中への攻撃に耐えながら、湧き上がる感動を噛み締めた。






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