第6章 波乱
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時は遡ること数分前、木兎先輩とよろしくの握手をした直後のこと。
木兎先輩の一言から全ては始まった。
「あっ!そうだ!赤葦と赤石って似てるからさ!トスも上げられるんじゃねーの?!」
「「……は?」」
いやいやいやいや。
ない、それはない!
「…それは無理でしょう、木兎さん」
「えー。バレーやったことない?」
「じゅ、授業でしか…!」
「んじゃ出来るって!」
頭が取れそうなくらい必死に首を横に振るけど木兎先輩の期待の眼差しは消えない。
えぇい!そんなに目をキラキラさせるなっ!
思わず涙目で赤葦さんに助けを求める。
「木兎さん諦めてください。ムチャ振りにも程があります。休憩終わったらまた俺が上げますから…」
「だって赤葦この前つけ指したの、まだ痛むんだろー?!隠してても分かるぞ?!」
ぎくっとした顔で右手を押さえる赤葦さん。
……え、そうだったんですか?
私も見れば、その薬指にはテーピングがされていた。
彼が反論できなくなったのを見て、再び矛先がこっちに向く。
「ねえねえ、ちょっとでいいからさ!」
「い、いや、でも私、運動は苦手で…!」
「上に上がればそれでいいから!」
「…〜〜っ!」
「……でも、制服のままは いかがなものかと…」
「 ?? ジャージ、持ってんじゃん」
辛うじて赤葦さんがいれた別の切り口からのフォローも、私の荷物を見た木兎先輩に打ち砕かれる。
なんで洗濯のためにジャージを持って帰ろうとしたのが今日なんだよ、私…!
こっちもこっちで、赤葦さんが怪我をしていて無理してるという話を聞いたあとでは無下にもできない。
つまり、退路がない。
とりあえずやってみよーぜ! と言う彼を、もう止められる人はいなかった。
「あ、あとやっぱ赤石って紛らわしいから、こはるって呼んでいー?」
……もう、勝手にしてください。