第2章 〜春、桜と君と。〜
「はぁ…。もう疲れたなぁ。」
疲れた体を引きずり、家に帰りながらひとりごちる。
木々は綺麗に花をつけ、朗らかだというのに、私の心は晴れていなかった。
(ケンカしちゃうなんて…、
明日からどうすれば良いのかな……泣)
(ううん。使ってたのにボールを片付けちゃったり、木兎くんと一緒になってうるさく言っちゃった私が悪いよね。)
そうなのだ。
優梨の彼氏である一つ年下の赤葦は、部活中、使っていたボールを優梨に片付けられ、挙げ句の果てに、優梨と、木兎が一緒になって赤葦に対しての小言を言ってるのを聞いてしまったのだ。
結果、普段は冷静な赤葦が珍しく怒ったというわけである。
流石の木兎も驚いた様で、何度も謝っていたが、まだ許してもらっていない。
「赤葦くんはどうやったら許してくれるんだろう?」
と、考えながら歩いていたのが悪かった。
急に腕を引っ張られ、路地の間の壁に押し付けられてしまったのだ。
驚いて声も出ない優梨は、辛うじて目を開けた。
そこに写っていたのはーー。
怒って先に帰ったとばかり思っていた赤葦だった。
「あか…あ、しくん…? どうしてここにいるの?」
「ゆう先輩、俺のこと甘く見てませんか?俺だって一応、彼氏なんですよ。だから怒ってたとしても、こんな暗い道を大事な先輩1人だけで返すわけないじゃないですか。良い加減わかってください。」
そう言いながら、壁に押し付けていた優梨の手を優しく離そうとする赤葦。
優梨は、このまま手を離されたら、もう戻ってきてくれない様な気がして、
「っ!待って…!!」
と、離れかけていた彼の手を掴んだ。
「…先輩?」
赤葦はポカンと驚いている。
「赤葦くん、今日はごめんなさい!
ずっと謝ろうと思ってたんだけど、どう謝って良いか分からなくて…っう…。」
赤葦がすぐそばにいる幸せと、謝りたい気持ちで一杯になって、涙が出てきてしまう。
(まだ、何も言えてないのに…っ!)
拭っても拭っても、とめどなく溢れてくる涙。
なのに、言いたい言葉は溢れてこない。
そのもどかしさに、うずくまりそうになった時、赤葦が
「優梨、落ち着いて。ゆっくりで良いですから。俺、言ってくれるまで待つから。」
と、己の腕の中に優梨を抱いた。