第3章 〜I’m Lovin You!〜
フワッ、と光太郎の身体が宙に浮いた。
次の瞬間、バシンという音を立て、彼は、ボールを敵のコートに打ち落す。
その姿は、まるで梟のようだ、と形容される。
ビーッと鳴った試合終了の合図。
そして、ウオオーッという勝利を喜ぶ雄叫びが、会場全体を包んだ。
私には、バレーのルールは、いまいち理解出来ない所があったが、それでも、今の試合がどれだけのものなのかは、よく理解出来ていた。
光太郎は、1番前の観客席に座って、観戦していた私に向かって、ニカッという笑顔を見せると、メンバーと一緒に、控え室へと去って行った。
私は、観客席から立ち上がり、居住まいを少し正してから、会場の出口へと歩いていく。
会場の出口に着いた時、光太郎の姿が見えた。
白地に、金のような色と紺色の線が入っている、私の母校の、バレー部のジャージを格好良く羽織って、スマホで何やら連絡を取っている光太郎は、私の姿に気づかない。
ちょっと近づいて、ジャージの袖を、ちょんちょん、と引くと、やっと気づいた光太郎は、また、あの笑顔を覗かせる。
そして、笑顔を見せてくれるのと同時、私の身体を、力一杯抱き締め、やったぞ!俺勝ったぞ!ヘイヘイヘーイ!と、大きな声で喜んでいた。
周りでは、まだ人通りが多く、注目を浴びていた。
いつもの通り、光太郎は、そんなこと気にしていない様子である。
「…今日は、たくさん甘えさせろ」
光太郎は、優梨を抱き締めたまま、耳元で囁いた。その表情は、さっきの無邪気な笑顔ではなく、妖艶な笑顔だった。
「…ちゃんと、ご飯食べてからにしてよ」
少し、否定の意を示しながらも、完全な否定はしない優梨。
彼女は、彼に心を捕らわれていた。
空がいつの間にか、赤く染まって、幻想的だった。
そんな帰り道を、2人並んで歩く。
今日は、光太郎の家にお泊まりする日でもあった。
それから、10分くらい歩いたところで、駅に着いた。
駅のホームを見てみると、もう電車が来ていて、優梨は、全力で走らなければ、間に合わないと感じた。
突然、優梨の身体は地面から離れた。
光太郎が、お姫様抱っこして、ホームまでダッシュする。
さっきまで、跳んだり、打ったりしていたのに、光太郎の身体は疲れを知らないようだった。