第2章 故郷の色【イゾウ】
あたしの1番古い記憶
自分の腰にはロープが結わえてあって、ある程度動き回れるくらいの長さを持たせて端はテーブルの脚に括り付けてあるの。好き勝手に遊んで、ふとした時に寂しくて母親を呼んでた。
『おかあさん』
呼んだ先には、キャンバスに向かう母親。
一心不乱に絵を描き続けている姿は子ども心に少し恐ろしくて、泣きベソをかきながら何度も呼ぶんだけど全然振り向いてくれなくて。どんなに手を伸ばしても、ロープのせいで母親には触れることもできないの。
そんな時間がしばらく続いた後、おかあさんはハッと現実に引き戻されて慌てて私の体に巻きつけてあったロープを解いてくれた。
「ヒイロ、もう大丈夫だから」
ぎゅっと抱きしめてくれるおかあさんをあたしも抱きしめ返す。
『こわかった、おかあさん』
「もう大丈夫。おかあさん、絵を描いてると周りが見えなくなっちゃうの」
『さっきのおかあさんはキライ。優しいおかあさんに戻って』
「ごめんね。でも、絵を描くのは辞められないのよ。」
『どうして?』
「絵を描く事を辞めたら、私は生きていけないわ。好きな事が出来ないなんて、そんな抜け殻みたいな生き方私には出来ない。」
今考えると、本当に芸術家肌の人だったんだと思う。けど、その当時のあたしはそんな事分かる筈もなく
ただただ切なかった。
絵に対する情熱にあたしって存在は敵わないんだって。