第1章 月夜【レイリー】
わたしは久しぶりに行きつけのバーの扉を開けた。
薄暗い店内に足を進め、カウンターへ向かうとマスターは隅に座っているお客さんと話している。
「そろそろシャッキーの所へ戻ったらどうだい?また半年も帰ってないんだろ、レイさん」
マスターの声が聞こえた。
「あぁ…そのうちな」
そう答えたのは、明らかに『おじいさん』なんだけど…なんだろう、すごく精悍な顔をした人だった。
(すごく現役感あるなぁ)
それが“彼”への第一印象だった。
そんなことを思いながら何となく眺めていると、不意に目が合った。
その瞬間、ガタンッと音を立てて立ち上がった彼にガシッと両肩を掴まれる。
「女の子がこんな時間に何をしとるんだ!」
キョトンとするわたし。
マスター、彼、わたしの間に暫しの沈黙が流れた。
「ぶわっはっはっはっ」
盛大なマスターの笑い声が響く。
『マスター笑い過ぎ。』
ジトっと睨むわたし。そして、彼に向き直る。
『あの、背はこんなですけどわたしもう三十路です。女の子って歳じゃ無いでしょう?』
そう、わたしの身長は150㎝くらいしかない。最近は背の高いコも多いから、変な勘違いをさせてしまったようだ。
「すまんな、薄暗くて顔がよく見えんかった。女性と女の子を間違えるようじゃ私もやきが回ったな」
困った顔をして、頭をかいている。
「まあまあ、2人とも座んなよ」
マスターが声をかけて来るけどまだ肩が震えているのをわたしは見逃さない。
『いつまで笑ってるのよ。結構気にしてるんだから。』
「小柄で可愛いって事だろ?いいじゃないか」
そう言うマスターにあっかんべーしてやった。