第3章 新しい朝*緑間
「ふぅ。」
ゆっくりと息をつけば、緊張が溶けていくのを感じた。
自分ではそんなつもり無かったが、どこかで気負っている部分はあったようだ。
入学式の挨拶も終わり、俺は自分の席で空を見ていた。
ペンキをこぼしたような雲一つない青空。
(…そういえば、あいつもよく空を見ていたのだよ。)
中学時代。
つい1ヶ月前には当たり前のことだったのに、なんだか懐かしい。
懐かしく思うというのはこれも成長なのだろうか。
今までとは違う、新しい朝。
明日からはこれが当たり前になる。
視界の下の方では桜の木が映る。
その桃色は、あいつがはにかんだときに染まる頬の色と似ていた気がした。
(あいつ、大丈夫だろうか…)
人見知りなマネージャーのことを思い出す。
笑顔も。
真剣な顔も。
頑張っているところも。
拗ねているところも。
ころころと変わる表情が、驚くほど鮮やかに思い出される。
(それもそうか…。)
笑みが漏れる。
忘れるはずもない。
初めて好きになった彼女を。