第67章 もう一つの真実*高尾
「別に俺が女でも何か変わるわけではないだろ。」
「え、あ、うん…そうだな…」
状況が飲み込めないまま、何となくで頷く。
確かにそんなに関わりが多かった訳じゃないし、男でも女でも変わらないかもしれない。
千秋のファンからすれば重大なことだろうが、オレに言わせれば些細なことだ。
ただオレの脳内によぎったのは、恋敵が減ったなという事だった。
なんて愚かなんだろうって自分でも思うぜ。
でもこればっかりは仕方ねぇ。
それほど優ちゃんが好きなんだ。
ライバルは1人でも少ない方がいいって思っちまうだろ?
オレはみんなで仲良くなんて、そんな出来た人間じゃねぇよ。
もちろん、やれることはやる…それこそ『人事を尽くす』つもりだし。
ってオレなに考えてんだよ?!
自分で勝手に考え、勝手に恥ずかしくなる。
と、とにかく!
千秋は優ちゃんにとって大切な人。
それは変わらない。
で、優ちゃんにとって大切な人なら、オレも大切に思う理由にはなる。
少なくともオレの中では。
「どっちにしろ、よろしくな!」
オレが手を出すと、千秋は驚いたようだった。
また千秋だけではなく、真ちゃんも少なからず驚いたようだったが、すぐにふっと笑みを浮かべた。
「よろしく頼むのだよ。」
「ああ、友として。よろしくな。」
差し出した手に、はにかんだ千秋の手の熱が重なる。
突然、合宿の夜が頭によぎる。
あの時、恋心は伝染するなんて思ったっけ。
それと一緒だ。
友情も、人と繋がって広がっていくんだなぁなんてしみじみ思った。