第52章 心は波にさらわれて…*茶倉
「はぁ……」
私は海を見つめながら、大きく息をついた。
部活をやっている時は良かった。
よけいなことを考えなくて済んだから。
…でも一人になったとたん、昨日のことが思い出される。
(人を好きになる、か…)
みんなが当たり前のように経験していること。
でも私にはわからなかった。
失った記憶には好きというきもちもあったのだろうか?
なんて、
そんなこと無意味だって知っている。
過去の私と今の私は違うんだから。
……そう割り切ろうって決めたんだから。
「はぁ……」
もう一度ため息をつくと、空を仰ぐ。
明るく輝くのは、空と海の二つの月だけたった。
サザッという波の音がやけに耳につく。
今日は海がいつもより大きく感じられた。