第6章 ★笑顔の作り方〔天〕
それぐらいでしか正確な意思表示ができない弥澪に、なんだか腹が立ってきてしまう。
「言いたいことがあるならはっきりと言って。じゃないとボクだって分からない」
ーーー私
いつも以上に間が空いた。
急かすべきではないと分かっているからただ黙って続きを待つ。
ーーー嫌われ者だから
「……意味が分からないんだけど」
ーーー笑顔に心がないって
「いつも見せてる笑顔のこと?」
ーーーみんな私を嫌う
「そんなもの……」
放っておけばいいと言おうとしてやめる。
ボクからしたら単純なことだけど、喋ることのできない弥澪からしたら結構な問題だ。
「……君はそのままでいいんだよ」
ーーーでも
「笑顔なんて、いつだって作りものなんだから」
ーーーそれでも嫌、離れていくのは
「ボクは絶対に離れたりしないよ。だから安心して」
今度はボクから抱きしめる。
繋がっている部分がとても熱かった。
また指が背をなぞった。
ーーーありがとう
たった五文字。
その言葉の中に色んな意味が入っていることを知ったのはだいぶ後のこと。
その時はただ、僕の答えにありがとうと言われただけだと思っていた。
「ボクは弥澪の笑顔を嫌ったりしない。だって君のことが大好きなんだから」
首筋にキスを落とし、赤い跡をつけていく。
決して裏切らないという証を残すようにして。
「だから泣かないで。ボクに君の笑顔を見せてよ」
頰を撫でてそう言うと、弥澪は精一杯の笑顔を見せた。
雨の中に咲く、小さな花のように。
その笑顔を目に焼き付けて、ボクはまたキスを落とした。
〜終わり〜