第5章 ミゼレーレ
しゅるりと、背中の結び目が解かれ、前掛けが床に落ちる。
それは白い椿が木からぽとりと散り落ちたみたいだった。
汚れてしまう、と手を伸ばすも拾うことはできず、それは遠ざかっていく。ぐわんと動いた視界に天井か映るが背中に痛みはなく、倒された場所が"べっど"だと気付く。
「これは、いったい、なんなんですか」
頭も身体も重くなって、起き上がる事を拒否してる。
問い掛けに対する答えは無く、暫くの沈黙の後「アンタは何も考え無くていいのよ」と大きな手がそっと頬に触れた。
それだけで身体がぞくりとした。
触れられた箇所が熱い。
ぷつり、ぷつりと留め具が外され、伯爵が仕立ててくれた服がはだけていく。
脱がされているというのに、空気に晒された身体は汗ばむ程に熱を持つ。
布越しに伝わる指の動き。布が肌に擦れてくすぐったいだけのその動きが、なんだか酷くもどかしく感じる。
「からだ…あつ、くて、…へんな、かんじ…します」
「どんな感じなの?吐き気とか頭痛は?」
「いえ、あ、あの……はくしゃくに、さわ、られるの…すごく、きもちい…です」
「……あっそ、心配して損したわ」
いつもみたいにむぎゅっと頬をつねった白い手はすぐに離れ、ゆっくりと胸元に移動する。
「でもまぁ…可愛い事言うじゃない」
艶やかに笑った伯爵の指が鎖骨を撫でる。
「ひゃあっ…」
耳を、腕を、胸を、首を、弄る。
腰を、太腿を、肩を、臍を、まさぐる。
手の甲を、膝を、足の指を、唇を、玩ぶ。
私の反応を楽しんでるみたいに、触れてくる。
もはや身体が全部熱い。
「はくしゃく、あぁっ…、さんじぇるみっ、はくしゃく」
脳みそがドロドロに溶けて何も考えられない。頭の中が伯爵でいっぱいになる。
頭がおかしくなってしまった私は、その時伯爵がとても悲しそうな顔をしてた事に気づくことができなかった。