第16章 好き。すき。スキ*
どんどん黄瀬君が、私に近づいてくる…緊張のあまり、後退りしたい…そんな事が、頭をよぎる。
「桜っち…お待たせ。」
甘くて、優しいその声は、聞いているだけで私の脳を麻痺させていく。
「あの…あのね…」
ちゃんと言う事は、決めてきた、なのにもかかわらず次の言葉が出てこない。
モタモタしている私を見るに見かねてか、黄瀬君は私の手をそっと握ってきた。
「桜っち…ちゃんと聞いて?俺、桜っちが、好きなんスよ…桜っちを笑顔にするのも、泣かせるのも、幸せにするのも、ぜーんぶ俺がしたいんス…」
えっ、えっ…どうしてそんな風に言ってくれるの?私、全然自分の気持ちを伝えられてないし。こんな中途半端な私に、どうしてあなたは…そんなに優しいの?ちゃんと私も気持ちを言わないと…
ずっとそう思ってた。でもそれは、違った。
言わないといけないんじゃないや…言いたいんだ…今の私は、この人が好きで好きで仕方ないんだ。
「桜っち?」
「私だって……黄瀬君が好きなの…でも、どう言えば伝わるか、自分でもわからなくて、こんなんじゃないの…好きだけじゃない。もっともっと好きなの…」
言い出したら止まらなくなってくる。今までダムに溜まっていた水が溢れだすかのように…次から次へと言葉が出てくる…
ちゃんと伝わってるのかな?いや、むしろ日本語にさえなっているかわからない。
「もぉー!なんて言えば良いの?スキ。すき。好き。最初、黄瀬君の事なんて苦手だったのに…気づけば、どんどん好きになっていくのが怖くて…辛くて…私…自分がよくわからなくて…」
そこまで言うと、私の握られていた手が黄瀬君の方に引っ張られるのがわかった…私の後ろ髪に指を絡めて、きつく、きつく抱きしめられる。
「桜っち……俺の彼女になって?」