第16章 好き。すき。スキ*
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ーー桜…
ーー澪??みおなの?!!
目の前には、顔が見えないけど…ぼんやりと澪の姿をした人が立っていた。
ーーどうして返事をしてくれないの?
そして、私からどんどん遠ざかっていく。
ーー嫌だ、行かないでお願い!!
その姿を追いかけるが、追えば追うほど…距離が遠くなっていく。
ーー怖い…助けて…
誰も助けてくれない…そう思っていた。
ーーもう。大丈夫
誰かが、私の頭を優しく撫でてくれる…あっ…この感じ知ってる。暖かくて包み込まれていく感覚。
ーー俺がいるよ。
あなたは…
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意識が徐々にハッキリしてくる。
あぁ…また同じ夢を見た。でも今日は、少し違う。いつもなら、自分がどんどん暗闇に包まれて最後には、いなくなってしまう。今見た夢は、初めて誰かが助けてくれた…
真っ白な天井をボーっと見つめながら自分の気持ちが、やけに落ち着いている事に疑問さえ覚える。
そろそろ戻らないと…
体を上げカーテンを開くと養護教諭の夏目先生が私の方に顔を向けた。
「あら、もう大丈夫なのかしら?」
「はい、すいません。先生がいない時に勝手にベット使ってしまって…」
「体調悪かったのなら、仕方ないでしょ?私も会議で外してたから、ごめんね。」
「いえ…じゃあ、戻ります。」
「あんまり無理しないようにね?黄瀬君、凄く心配してたわよ?」
「えっ!?来てたんですか?」
「そうみたいね。ここから出てくる黄瀬君と会って、あなたが具合悪くて寝てるって聞いたから。後でお礼言っておきなさいよ〜」
「はい…」
あれは、夢じゃなかったんだ…きっと、あの感覚は黄瀬君の温もりだ、それを想像するだけで冷めていた熱が急激に上がっていく。
早く会いたい…会って、ありがとうって伝えたい。
あの暗闇から救ってくれた優しい手の感触を思い出しながら…自分の心が柔らかくなっていくのを感じた…