第1章 【イルミ】檻の中でおやすみ【閲覧注意】
ゾルディック家の別荘である、森に囲まれた古い洋館で、イルミは恋人のアズサと束の間の休暇を過ごしていた。
十数本の炎を灯した蝋燭とカーテンの隙間から差し込む月明かりで、何とか部屋の全体がぼんやり見える程の暗がりの中…
“コロ”という名の、漆黒の体毛で覆われたライオン程の体躯の獣が、ポタポタと唾液を床に滴らせながらフーフーと荒い息を吐く口の中から、濃い紫色の長い舌を出して、床に座り込んでいる踊り子の衣装を纏い、手首を縄で縛られている少女の頬を舐め上げる。
その様子を、一人ソファに座り、無表情で眺めていたイルミが口を開く。
「うん、やっぱり似合ってる。
それ、“オドリコ”の衣装らしいよ。
この間仕事を受け持った客の趣味が各地の民族衣装収集でね、報酬のオマケみたいな感じで貰ったんだ。なんでも、その地域は凄く暑い国らしくてね、厚着でいる方がかえって涼しい位らしいよ。けど夜は昼間の暑さを忘れさせる程寒いんだって。そんな寒い夜に、酒場なんかで、沢山の美女がその派手な衣装で踊るとね…客がわんさか寄ってきて、熱気のせいか暖かくなるんだって。
…って、聞いてないか。」
『ひ…っ…いやっ…!イルミ……お願い…っ…助けて…!』
アズサの髪や身体の匂いを確かめるように大きな獣は嫌がるアズサの首筋や頭に、スンスンと鼻をつけて匂いを嗅いでいた。
「助ける?どうして?」
『っ…怖いの…!それに……涎がベタベタして気持ち悪い…。』
「怖いって……、オレが命令しない限りコロは噛んだりしないし、平気だよ。
……ていうか、ついさっき自分から何でもするって言ったよね。嘘だったの?」
獣を拒むアズサを捕らえているイルミの双眸が若干不機嫌そうに細まって、責める様に言葉を紡ぐ。