第17章 また食事は後回し
「…そうか。そら賑やかでいいのう」
「そうね。賑やかよ」
さて、と仕上がった帽子をためつ眇めつ、ラビュルトは欠伸した。
「明日はちょっと抜けられない仕事が入ってるから、早く寝なきゃだ」
冷蔵庫から牛乳を取り出して、フックに掛かった鍋をおろす。
「ゆっくり出来なくて残念だけど…」
動く度背中のしなやかな筋肉が伸び縮みするのが、緩やかなシャツの上からもわかる。汗ばむと掌に吸い付くような滑らかな背中。
「ブランタードにサラダとパンでいいよね?お茶が豪勢だったし。スープつくる?」
カクは鍋の火を止めてラビュルトの手を握った。
「腹は減っとる。じゃが飯は食わんでいい」
「んん?」
被さるように身を寄せたカクにラビュルトは首を傾げた。
「晩ご飯はアタシってこと?」
「贅沢じゃろう」
「そう?アタシはご馳走って訳だ」
「違うか?」
「フ。また甘やかす」
「ふん?ならまあ、魚よりかは旨そうじゃってとこにしとこうかの。どうじゃ?」
「上等じゃない?アタシ、魚も大好きよ」
「ワシャ肉のが好きじゃ」
「好き嫌い」
「誰にでも泣き所はあるもんじゃ。お前さんの歌みたいに」
そして可愛いそばかすのように。
髪に顔を寄せると薄荷が香った。
身近く居ながら触れずに過ごした一日。
客観的にラビュルトを見る不思議にもどかしい思い。
腰に腕を回して髪を掬い上げ、カクはラビュルトの目を覗き込んだ。
「ワシャ今無性にお前さんへ優しいしたいんじゃ」
「…アタシも無性に優しくして欲しかったとこ」
カクの口端に口吻けて、ラビュルトが肩に額を載せた。
シャツの裾から滑り込んだカクの手に薄く笑いながら目を閉じる。
下着を着けない滑らかな背中を大きな手が撫で上げた。
「仕事は?」
耳元で囁かれてラビュルトは僅かに首を振った。
「明日があるから、今日は休み」
「…そうか」
明日何をするのか、聞きたい。けれど聞かない。
聞いたらどうなるかわからないからだ。
幾度か柔らかく唇を重ねた後は、どちらからともなく手を繋いで寝室へ入った。