第1章 ラビュルト・エンダ
「じゃ、今度会ったら何かご馳走させて?」
「要らんて。ワシャおなごに飯を奢られる程困っとらん。それより身体を厭え」
「素直にご馳走させてよ。こっちの気がすまないって話なんだから」
岩を掴んで山肌を這うカサついた強い手が、大工仕事で皮の堅くなった手をぎゅっと握り締めた。
同じくらい大きさの、ラビュルトの掌の熱が温かい。
「しつこいのう。要らんわい」
「ヤだ」
「ヤだってなんじゃ。子供か、お前さんは」
「ヤだ」
掴まれた手も有り難くない次の約束話も、引っ込む気配がない。
「あぁ、わかったわかった。やれ、仕様もない女じゃのう」
諦めて投げやりに言うと、やっと手が離れた。
「よかった。じゃ、またね。改めて、アタシはラビュルト・エンダ。忘れないでよね。きっとすぐ会えるから」
「さあ、すぐ会えるかどうかは知らんがな。お前さんが名乗ったからワシも名乗っとこう。ワシャ、カクじゃ。偶然会うのは仕方なかろうが、探し回るような無粋な真似は願い下げじゃぞ」
ラビュルトは大きな口に楽しげな笑みを浮かべた。
「そんな事しないわよ。でもすぐアンタを見付けると思うわ、カク。アタシはこの街に巣食うハリアーだから」
「ハリアー?宙飛の事か。鷹?お前さんが?」
我ながら間抜けた声が出た。バカにした訳じゃないが、間が悪い。気を悪くしたか?
しかしラビュルトは笑んだまま、無頓着に頷いた。
「次に会ったらね、何でハリアーなのかわかるかもね。おやすみ、カク」